外為法改正と資本流出 ~急激な資本流出は起こるのか~

第一生命ウェブサイト広報部ニュースリリース掲載

act1:外為法改正と資本流出

<要点>

  • 外為法改正で資本移動が活発化するとしても、資本流出の増加同様、資本流入も増加する。ネットで資本流出入が増えるかどうかは、日米金利差要因などのマクロ経済状況に依存する。さらに、日本の外国投資のコストはすでに低い状況にあるため、外為法改正をきっかけに海外投資が大幅に増加することはないだろう。
  • 外国投資には、多くのリスクが伴なう。一方で多くの経済主体はリスク回避的である。このため、いかに内外金利差が大きく、資本規制が解除されたとしても、一気に資本が海外に向かって逃げ出すわけではない。皆がジョージ・ソロスのような投資行動を行なうわけではない。
  • 円売りが加速しても、それだけで資本流出は生じない。多くの議論は資本取引が等価交換であることを忘れている。「円売り」と同時に「円買い」が生じているのである。
  • ネットでの資本流出は外需増加を意味するため、景気拡大要因となる。景気悪化要因ではない。資本流出で金利が上昇するとすれば、それは外需拡大で景気が改善することが原因である。国内景気が低迷したままであれば、外需がある程度拡大しても、市場金利は上昇しない。
  • 今後景気回復期待が高まれば4月の外為法改正にも関わらず、資本流出圧力は低下し、円高に向かう。反対に、十分な経済対策が発動されなければ、日本経済は悪化を続け金利低下圧力が高まることで、資本流出圧力は高まり円安が進むはずである。

4月から外国為替管理が完全に撤廃される。外為法改正が日本経済に悪影響をもたらすとの見方が少なくない。外資系金融機関との競争で苦戦を強いられる日系金融機関のイメージと重なるためだろうか。代表的な見方の一つは、「外為法改正で日本から資本流出が加速するため、国内金利が上昇することで、日本経済に悪影響が生じる」、といったところである。果して、こうした見方は正しいのだろうか。

法改正よりも金利差要因の影響が大きい

あたかも、外為法という国内の資本市場と海外の資本市場を分断する「高い壁」が存在し、この壁が取り除かれることで、1200兆円の個人資産が一気に海外に飛び出す、と考えられているようだ。しかし、すでに、外国投資のコストは十分低くなっているのである。

規制が外国投資のコストを高めていたのであれば、為替管理の撤廃が海外投資を促進するのはまず間違いないだろう。しかし、問題はその影響度合いである。前回80年の外為法改正時には、急激に外国投資が増加した。これは、機関投資家の外国資産の保有がそれまで許されていなかったことが原因である。それ以降の自由化で、機関投資家の海外投資はかなり自由になっており、外国投資のコストは極めて低い状況にある。4月の規制撤廃をきっかけに、海外投資が大幅に増加するとは考えられない。

外為法改正の影響を論じる時、英国の79年の為替管理完全撤廃が引き合いに出される。しかし、自由化前の英国は強い規制下にあったため、自由化でポートフォリオの大幅調整が生じたのである。その経験を現在の日本にそのまま当てはめるのは、問題が大きい。

今後、海外預金の保有が認められるため、個人資金が海外に流出するとの見方もある。しかし、個人についても事情は同じである。国内の低金利を嫌気して、周知の通りすでに外債投資は増加している。

コストの低下によって外国投資が増えるにしても、日米の金利動向などのマクロ的な要因のほうが影響は圧倒的に大きい。例えば、日本経済が悪化を続け、国内の低金利が更に長引くとの見通しが強まれば、外為法改正がなくても、資本流出圧力は高まり、円安が進むはずである。反対に、景気回復期待が高まれば(外為法改正にもかかわらず)、資本流出圧力は低下し、円高に向かうだろう。同様に、アメリカ経済が予想以上に強ければ、米国への資本流入圧力が高まる形で、さらにドル高が進むだろう。国内外の金利差が変化すれば、法改正による外国投資コストの低減は、簡単に凌駕されるのである。

90年に為替管理を撤廃したフランスでは、自由化後、海外証券投資が増加した。しかし、それ以上に海外からのフランスへの証券投資が増加した。当時のフランスは金利上昇局面にあり、資本流入圧力が高かったのである。これまで資本流出だけに言及していたが、フランスで見られたように規制緩和は資本流入も活発化させるのである。結局、ネットで資本流出が増えるかどうかは、マクロ経済状況に依存するということなのである。

資本流出が加速するのと見方の論拠の一つに、主要国に比べた日本の海外預金比率の低さがある。しかし、各国の海外預金の多くは自国通貨建て預金である。仮に日本の海外預金比率が諸外国並みに高まるとしても、円建ての海外預金が増える分には為替市場に何ら影響を与えない。海外預金比率が上昇するインパクトを論じているものの中には、増加する海外預金すべてが外貨建て預金として扱われているものも少なくない(後述するが、日本人が保有する円建て外国預金、外貨建て預金が増えただけでは、ネットでの資本流出は生じない)。

ところで、国際資本市場は高度に統合されており、規制さえ無ければ、資金は高い金利に向かって海外に一気に動き出すとのイメージがある。しかし、実際には資本移動はそれほど活発ではない。

内外金利差を均等化するように資本が移動するのであれば、貯蓄の少ない国でも海外から資本を輸入し、巨額の国内投資を行うことが可能である。しかし、現実には一国の投資のほとんどはその国の貯蓄でファイナンスされている。

図は、OECD各国の純資本流出額と国民総貯蓄の対GDP比を示している(80年から95年の平均)。国民総貯蓄と国内総投資の差額は経常収支であり、これが一国のネットでの資本流出額となる。貯蓄率は各国間で大きなばらつきがあるが、純資本流出は狭い範囲に集中している。もし、資本が内外を十分移動するのであれば、国民総貯蓄がGDP比で20%、国内総投資がGDP比で35%という国があってもおかしくない(この国は純資本輸入がGDP比で15%となる)。また、国内総貯蓄がGDP比で35%、国内総投資がGDP比で20%という国があっても良い(この国の純資本輸出はGDP比で15%となる)。しかし、このように大規模な資本輸出入を行なっている国は現実には存在しない。高貯蓄国から低貯蓄国への資本移動はそれほど大きくないのである。

OECD各国の純資本流出額と国民総貯蓄の対GDP比

資本移動は内外の収益率に左右され、一部の資金は国内外を移動する。しかし、外国投資は、為替変動リスクやカントリー・リスクなどさまざまなリスクを伴なう。高収益投資は、リスクを取ることへの対価である。フリー・ランチは存在しないのである。多くの経済主体はリスク回避的であり、金利がかなり高いと思われるような発展途上国があったとしても、すべての日本の経済主体がそうした国へ投資を行なうわけではない。これは、多くの経済主体が非合理的なのではなく、一見大きいと思われる内外金利差であっても、リスクを補償するには十分ではないのである。金利水準が20%や30%の発展途上国があったとしても、そのような国への投資は躊躇するだろう。皆がジョージソロス氏と同じような投資行動を行なうわけではない。国際資本移動は経済全体から見れば、極めて限定的なのである。

資本移動に関する誤解

国際資本移動に関する誤解は多いが、そのいくつかは資本取引が等価交換であることを忘れていることから生じている。「円売り」とはいうが、同時に円買いが生じているため、資本の流出入はネットではゼロである。

例えば、日本人が外国資産に投資する場合、それだけで資本流出は生じない。まず、貿易がない世界を考えてみよう。ある日本人が外国人から外貨建て資産を購入する場合、グロスで資本流出は確かに起きる。しかし外貨建て資産を売った外国人はその対価として円資産を購入している。同時に資本流入が生じているから、ネットの資本流出はゼロである。この話は、取引がドル建てであっても円建てであっても全く変わらない。もちろん、日本人がドルを支払い、外国人が円を支払ったとしてもである。言うまでもなく、日本人が他の日本人から、外国資産を購入したとしても、資本流出は生じない。日本人の中で外貨建て資産の持ち主が変わるだけである。

マーケットで円売りが進展しても、資本流出圧力が高まっているというだけで、厳密には資本が流出するわけではない。円を売りたいと思う人間が多い場合、円は下落するが、十分下がったと考える買い手が現れたところで、円の下落が止まるだけである。資本取引は等価交換であって、無償贈与ではない。

資本流出が起きるとすれば、ここで貿易を加えなければいけない。資本流出圧力が高まった結果、円が下落するが、この円安は日本の輸出増加を促す。この外需の増加が生じて初めて、実際の資本流出が生じるのである。例えば、輸出代金がニューヨークの銀行口座に振り込まれるとしよう。これは日本からのネットの資本流出である(実際には、輸出が発生した段階で債権=資本流出が生じている)。しかし、その後は振り込まれたドルを円転しようが、そのドルを元に米国国債を購入しようが、いずれも資本取引であり、ネットでは資本流出入は生じない。

資本流出は景気刺激的

資本流出は外需増加を意味するため、景気悪化ではなく景気拡大を意味する。これは理論ではなく、事実である。しかし、一般には驚くほど知られていない。外需増加が資本流出を意味することを直観的に理解するのは難しいとしても、円安によって日本の純輸出が増加し、これが景気拡大効果をもたらすことは容易に理解できるだろう。資本流出圧力が高まり円安が生じることで、外需が増加し実際に資本が流出するのである。

資本流出の結果、日本の金利が海外水準に近づく形で上昇するとの懸念もある。筆者らは外為法改正それ自体をきっかけに資本流出が急激に生じるとは考えていない。しかし、マクロ的な要因が加わることで海外投資が活発化し、円安が加速することは十分あり得る。

この場合、過度の円安は好ましくないとの見方から、政策金利が引き上げられるだろうか。円安進展を避けるために、円買い介入や金融引き締めが行われることになれば、それが景気悪化要因になることはありうる。ただし、ここでで注意しなければ行けないのは、通貨下落そのものが景気悪化要因になるのではないことである。高金利政策や円買い介入などがもたらす流動性縮小が景気悪化要因となるのである。通貨当局の行動がもたらす流動性縮小を、資本流出と混同してはいけない。

実際に日銀が利上げを行うかどうかは、国内景気の動向次第である。景気低迷が続いていれば、利上げは好ましいことではない。景気回復が期待できないのであれば、円安が持続することになる。国内の需給ギャップが大きければ、輸入インフレが国内インフレにつながるリスクも小さいだろう。

金利が上昇するとすれば、すでに国内景気の回復局面にあり(もしくは回復期待が高まり)、円安などによる追加的な景気刺激効果がこれ以上必要ない状況になっている時であろう。

外為法改正で金利が上昇して景気が悪くなるのではなく、景気が良くなる結果、金利が上昇するのである。

<参考文献>
Feldstein M.and C.Horioka 1980
Domestic Saving and International Capital Flows
Economic Journal
「海外預金とマネーサプライ」
日本銀行月報 1996年7月号