実感なき景気回復の正体は

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2004年7月号掲載

乏しい回復感

 数々の経済指標は間違いなく景気回復局面を示している。1-3月の実質GDPは大方の予想を上回り、年率6%を超える成長を記録した。生産指数は堅調、景気の量感を示すといわれるコンポジットインデックスも、バブル崩壊後のほぼ最高水準を示している。回復を示す指標をあげることは、枚挙にいとまがない。一方で、景気回復の実感は、正直それほど感じられないというのが大方の感覚であろう。なぜこのようなギャップが生じるのだろうか。よく指摘されるのが、今回がデフレ環境下における景気回復だという点である。実質値が回復していても、物価が下落していれば名目ベースで見る売上や収益、賃金は必ずしも回復しているとは限らない。実感として感じられるのは、あくまでも名目値が回復してからという説明である。しかし、実際には大手企業の中には名目値である収益を拡大させているところが少なくないし、株価はまぎれもない名目指数である。すでにいくつかの名目指数が回復しているにもかかわらず、やはり実感は乏しいのである。
 一般論として、景気回復時には認知ラグが発生し、経済指標の好転から一般の人々が感覚的に回復を実感できるまでには一定の時間がかかる。ただし、今回は、一般論として片付けられるほど単純なものではなさそうである。

生産面の回復と中小企業の雇用

 企業の大きさ別にみると、すでに大企業においては生産面の回復がある程度、雇用賃金の回復に結びついている。業種によって、大企業の雇用は上向いているのである。問題は、中小企業の回復である。日銀短観やその他の企業規模別調査から言えることは、今回の回復において大企業と中小企業の景況感格差が大きく開いていることである。回復の先導役が電気機械、輸送機械といった輸出産業に偏っていることとも関連している。中小企業においては、厳しい価格競争や公共事業関連の落ち込みが今なお暗い影を落としており、生産の回復や景況感の改善はままならない状況が続いているのが現実である。当然、雇用・賃金面の回復にも結びついていない。このことは、単に悪いところは悪くて仕方がないという議論では片付けられない。
 なぜなら、中小企業の就業者は、分類の仕方にもよるが全体の就業者の約6割を占めるからである。つまり6割の就業者は、景況感の回復が希薄な状況におかれているということである。さらに、失業者や職探しをあきらめて労働市場から退出している人たちを加えると、働き盛り世代で回復感を味わえない人の割合は、7割程度と見ることもできるのである。
 景気の波及プロセスを考えると、内需主導の回復を実現するためには力強く持続的な消費の拡大が不可欠である。そのためには消費者=就業者の景況感改善が欠かせないのである。生産指数で景気をとらえることは、方向性のシグナルとしては有効であるが、持続力や景気の波自体が持つ深さを判断することは難しい。景気回復は疑いようもない事実であるが、今後の関心事は、この回復局面が一部の産業や、一部の地域にとどまらず、幅広い波及を見せてくれるかどうかである。その意味でも中小企業の景況感からはしばらく目が離せない。