あなたはどこに軸足をおきますか

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2004年8月号掲載

格差の拡大

 6月短観によると、大企業製造業の景況感は、予想の上限を超えて大幅な改善を見せた。また、新聞紙上でも景気回復を報じる記事が目立つようになってきた。しかし、中小企業経営者に話を聞いても「景気も少しは良くなってきたらしいね」と人ごとである。
 それもそのはずである。確かに中小企業の景況感も回復はしているものの、大企業との格差は、むしろ今回も拡大しているのである。製造業については、大企業+10改善に対し、中小企業+5改善。非製造業は、大企業+4改善に対して、中小企業+2改善である。今回の短観で確認されたのは、(1)外需主導回復の恩恵を享受できる企業とそうでない企業、(2)市況回復の恩恵を享受できる企業とそうでない企業の格差拡大である。業況判断DIの変化が同一業種であるにもかかわらず、企業規模でまったく逆の動きをした業種がある。「石油・石炭製品」である。大企業は18と大幅改善、中小企業は▲18と大幅な悪化である。容易に想像がつくと思うが、価格転嫁ができるか否かの違いであろう。これほど極端な例は、例外かもしれないが、多かれ少なかれ多くの業種で同じような傾向は見て取れる。
 大企業と中小企業の景況感ギャップの広がりは、とりもなおさず景気の裾野の広がりが脆弱であることを物語っている。過去の景気回復局面においては、大企業と中小企業のギャップの拡大は、景気のピークアウトが近いシグナルだった。就業者全体の過半数を占める中小企業の景況感回復がなければ、雇用の本格回復→消費の本格回復=内需主導の持続的な回復は難しい。

何のために景気判断をするか

 大企業と中小企業のギャップ拡大や現在の中小企業の脆弱さを論じることは、何も単純に弱気論者に組するためのものではない。ましてや、行政に対して単純に中小企業の保護を訴えるものでもない。今回の回復局面が持続的な回復を見せるかどうか、そこを見極めたいがためである。
 バブル崩壊後、経済構造のあり方をめぐって供給サイドからの論点や、米国をお手本とした競争促進政策が打ち出された。90年代を通して明確な経済回復は見られなかったが、ここに来てやっと失われた10年が過去のものになる可能性も出てきた。あるいは、今回も回復自体が一部のセクターにとどまるのならば、この国が失うものはさらに大きくなるのかも知れない。金融システム不安という劇薬を使ってでもやろうとしたことが結実するかどうか、それが問われているのかもしれない。
 何のために景気判断をするかは、その人が置かれている立場によって異なる。金融、財政の各政策の材料に使われることもあれば、投資判断の材料に使われることもある。エコノミストであれば、当てることそのものが目的になることもある。新聞記者は、世の中のムードを明るくするために材料を集めなければならないこともある。会社経営者であれば、自分の会社が置かれている立場を客観的に判断する材料に使うであろう。それぞれが背負ったものによって軸足は変わってくる。重要なのは、その軸足がぶれないようにすることである。軸足を変えて論じることは混乱の原因になりかねない。ムードが変わったときにこそ、自分の足元を良く見て軸足を確認しなければならない。
 これまで、我々がやってきたことを是々非々で判断する上でも今回の回復は重要である。