貸し渋りはなくなったか

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2004年10月号掲載

日銀短観の貸出態度判断DIは改善傾向

ひところに比べて、貸し渋りが話題になることは少なくなってきた。6月調査の日銀短観の貸出態度判断DIでも、中小企業の貸出態度判断が水面上に浮かび上がるなど、改善傾向は明らかである。ちなみに、中小企業の貸出態度判断がプラスになったのは、大手金融機関が破綻し金融システム不安に火がついた97年末以来のことである。中小企業の経営者に対するヒアリングでも、銀行は、貸せる会社には積極的になっているとの情報を多数耳にする。「金融検査マニュアル」が厳格に運用され、中小企業向けの貸出が冷え込んだときとは隔世の感である。
この間、多くの金融機関が統合され、公的資金の導入を行い金融システムの健全化に多大な力が注がれた。中小企業関連でも、「金融検査マニュアル」に別冊を用意し、中小企業金融の危機的な状況は改善させた。これら、2003年初頭に見られた金融検査に関する実質的な方向転換は、貸し渋りをめぐる環境を大きく転換させたわけである。金融行政当局の努力が一定の成果をあげていると見ることができる。

貯蓄と投資のバランスから

確かに、検査の厳格性だけに固執することなく、地域金融の重要性を認識し、貸し渋りの状況を脱却したことは十分評価に値する。しかしながら、日本経済全体の貯蓄と投資のバランスに目を向けたときに、この問題が本質的には解決していないことがよくわかる。
現在、日本の貯蓄・投資バランスを見ると、企業部門は、貯蓄超過である。企業部門が貯蓄超過であることは、金融仲介機能が正常に機能していないことの裏返しと見ることができるのである。これを貸し渋りと呼ぶか「借り渋り」と呼ぶかは、立場によって異なってこようが、結果的に貸し渋り体質になってしまっていることには違いなかろう。
一国の経済では、企業部門と政府部門の資金不足を家計部門の貯蓄が補うというのが一般的な形である。これに海外から借金をするか海外に貯蓄を持つかという調整が加わって帳尻が合う。海外から借金をして国内の貯蓄不足を補っているのが経常赤字国であり、結果的に国内に貯蓄をもてあまして海外に貯蓄をするのが経常黒字国である。現在の日本のI-Sバランスを一言で言えば、家計部門も企業部門もひたすら金を溜め込み、政府が一人使い、それでも余るから海外資産を買うといったところか。あくまで結果的に。
もちろん貯蓄と投資のバランスは、結果論的なものに過ぎないとの批判もあろう。しかし、結果的に貸し渋り体質にしてしまったということに対しては、経済政策を運営する当局にまったく責任なしと言えるだろうか?金融の健全化との掛け声の下、金融機関の財務体質強化が行われたが、これは、不幸にも金融仲介機能を著しく不健全なものにした。本来の意味での金融の健全化である金融仲介機能の健全化については、これからが正念場である。決して、経済が貸し(借り)渋り体質にあることをお忘れなきよう。