高まる停滞リスク

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2005年1月号掲載

失敗したバトンタッチ

2004年前半まで回復を続けてきた景気も年央あたりから回復力に陰りが見え始め、輸出系製造業主導の景気回復がその他の部門にうまくバトンタッチできるかが注目されていた。電子デバイス系の生産は、設備投資をとおして生産財系の回復にうまく波及できたかに見えたが、地域的なすそ野の広がりの観点から見ると、必ずしもうまくバトンタッチしたとは言えない。東海、中国を頂点とする景況感の回復は、ついに北海道、東北や九州に波及することはなく、これらの地域では徐々に停滞感が広がっている。中小企業が多い近畿地方でも生産、消費とも横ばい圏の動きが続いている。
製造業から非製造業へのすそ野の広がりや大企業から中小企業への波及についても、日銀短観等で見ると、むしろ格差が広がっている。特に中小非製造業のカギを握る小売業、飲食業の消費関連セクターは依然として厳しい状況が続いている。景気の持続的な拡大のためには、すそ野の広がりが不可欠だが、現段階では非常に難しいと状況といえ、景気停滞のリスクは確実に高まっている。
もっとも、電子デバイスの回復に追随できるだけのセクターが見当たらなかったことで、全体としての大きな調整には結びつかない可能性は高い。しかし、これとて注意が必要である。
景気後退のリスクが高まったときに、近年の在庫管理技術の進展を根拠に在庫調整の影響力は低下しているとの議論は、常に展開される。しかし、その影響力は低下しているとはいえ、決してなくなることはない。在庫調整にとって重要なのは、どれだけ在庫を積み上げたかよりも、需要が予想以上に冷え込んでしまうことである。結果として過剰在庫になってしまう「意図せざる在庫増」が大きな調整圧力となって働くのである。将来の需要を完全に予見することができない以上、在庫調整圧力は働くことを忘れてはならない。

楽観論が景気後退をもたらすリスクも

需要が不足している状況下での構造改革がデフレ傾向に拍車をかけてしまう危険性については以前も触れたが、このことに加え、楽観論が政策変数を不必要に変更してしまうリスクについて、議論を徹底的に行う必要がある。つまり、定率減税の廃止や消費税の引き上げ等の増税論議、社会保険料の負担増大、金融政策の方針転換についてである。
橋本内閣時の増税策が、ただでさえ脆弱な景気の回復傾向に冷や水を浴びせたことは、記憶に新しい。一見、筋が通っていそうなストイックな政策も、こと経済という生き物の前ではまったく逆の結果をもたらしてしまう好例である。基本的には、橋本氏の政策路線を踏襲している小泉内閣が景気楽観論を背景に実質的な増税を実施する可能性は高いように思える。
注意深く下支えを行えば景気後退に陥らず、踊り場程度の停滞で済むものも、政策サイドのさじ加減ひとつで、景気後退を引き起こす可能性も否定できない。少なくとも、多くの地方中小企業は、景気が決して楽観的な状況にはないことを良く知っているはずである。政策当局が、結論ありきではなく、幅広い層の意見を冷静に聞いたうえで判断することを期待したい。