中小企業の特性を生かせ

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2005年9月号掲載

一週遅れの回復

前回も述べたように、ようやく中小企業の景況感悪化にも歯止めがかかり、回復の糸口を見出そうという動きが見え始めた。もっとも地域別や業種別に見るとまだまだ厳しい所も多く、感覚的には回復とは言えない状況だという声も聞こえてくるかもしれない。しかし、今回、大企業が景気の踊り場にいる間に、中小企業は、ある意味最後の調整を行ったと見ることもできるのである。本稿では、大企業が踊り場にいるなか、中小企業の状況については、踊り場というよりはより調整局面に近い状況だと論じてきた。大企業に比べて調整余地が多く残されていたからこそ、ちょっとした需要の緩みが調整に結びついた。そして、そこで調整を行ったからこそ、次の展開が見通せる状況になりつつあるのである。
思い起こせば、リストラという言葉が新聞紙上をにぎわせたのはもう3、4年以上も前のことだったろうか。ちょうど、大企業が大幅な人員削減を行っていた時期である。当時、従業員一人一人の顔が見渡せる中小企業においては、大企業的な一律何%というリストラは無理だと言われていた。しかし、時間の経過とともに自然減や採用の抑制等の効果が現れ始めてきたのだ。日銀短観等の各種調査においても、中小企業の人員余剰感にも改善の兆しが見えている。
設備投資意欲についても、緩やかな改善傾向が見え始めた。必ずしも生産能力増強投資ではないにしても、時間の経過とともに必要不可欠な投資が顕在化し始めたのである。例えば、耐用年数10年の設備でも、それ以上使うことは可能である。ただ、だましだまし使ったとしても、15年も経過すれば不効率な面も目立ち始める。ほとんどの中小企業は、既存の設備を我慢して使ってきた。金融システム不安の中では、銀行からの積極的な資金セールスも活発には行われなかった。中小企業に対する貸出態度が改善し、設備のビンテージが高まる中で、次の一手を考える経営者は増えているはずである。

企業家の魂を呼び起こせ

金融不安を抱えながらの景気回復局面では、大企業が先行しその後を中小企業が追いかけるという構図が定着したが、それ以前はむしろ、中小企業が先行し大企業がその後からどっしりとやってくるという構図が一般的であった。10年以上前から経済分析に興味を持っていた方なら、中小企業の設備投資は景気の先行指標だという言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。中小企業の意思決定は、プロセスが単純なだけに早く、大企業に比べれば動かす資金も小さく、機動的な運営が可能であるというのがその理由である。例えるなら、大きな船と小さなボートの違いである。
まさにそこに中小企業家のとしての存在意義があるのである。意思決定の速さと機動的な運営こそが中小企業の特性であり、このことを生かさない手はない。また、多種多様な規模の会社が存在する重層的な経済システム自体が、経済全体にとってのリスク分散となり日本経済の強さの源泉にもなっていたわけだ。金融システム不安に一応のめどが立った今、中小企業の本来の姿を取り戻す環境は、着実に改善の方向に向かっている。この流れを止めることなく、むしろ加速させるために、更なる環境整備が必要である。失われた10年を乗り越え、経済全体の好循環を引き起こせるかは、企業家の魂を呼び起こせるかにかかっている。