シリーズ 中小企業にできること・人材編(2)

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2006年10月号掲載

学生が企業を選ぶ基準

前回は、中小企業の人材育成の観点から話を進めたが、今回は採用に的を絞ってみよう。
採用の場面で学生に対して「企業を選ぶ基準は何ですか」と聞くことがある。面接だからということもあろうが、まず返ってくる答えは、「やりがいを感じられる」「自分を活かせる」といった答えである。もちろんこの答えは、うそも偽りもない本心であろうが、企業を選ぶ基準はそれだけではないことは、お互いわかっている。
面接で積極的に口に出さないまでも、給与水準や福利厚生の充実等の待遇面は、少なからず企業選びに影響を与えているはずだ。中小企業を受験してくれる学生さんは、気を遣ってくれているのか、あまり待遇面の話をしてくることはないが、重要なポイントである。また、定量的に測れる給与等の待遇面の他にも、本音ベースでよく聞く条件として「かっこよさ」が挙げられる。ブランドイメージと言っても良いが、有名な企業、流行の業種に人気が集まることを見ればわかりやすい。
さて、中小企業であるが、当然「かっこよさ」では大手にかなわない。テレビを通して日々多くの人に親しまれている企業と就職活動で初めて名前を聞く企業では学生のイメージはまるで違うだろう。待遇面でも、まずかなわない。賃金関係の統計は、中小企業の賃金が大手企業に大きく水をあけられていることを示しているし、学生もそのことをよく知ってる。福利厚生面を見ても、大企業は、組織として制度が整っている。
このように列挙すると中小企業を取り巻く採用状況は、真っ暗である。折りしもの労働市場の引き締まりから、空前の売り手市場というおまけまでつく始末である。

どこで勝負するか

それでは中小企業は、学生を採用することができなくなるのか?マスコミ等の報道ではそのような勢いだが、冷静に考えて欲しい。全就業者の7割以上は中小企業従事者である。裏を返せば、大企業に就職できる幸運な人は3割に満たないということである。
つまり、中小企業は大企業に対抗して人材獲得競争を挑むのではなく、自分たちの身の丈で勝負すべきだということである。大企業並みにイメージ戦略を打てないことや好待遇を与えられないことを悔いても始まらない。いつかは好イメージを持たれること、いつかは好待遇で迎えることを目指す姿勢が重要なのだ。
採用活動をする上で競争相手がいるとすれば、それは自分たちと同じ中小企業なのである。当然、景気の良し悪しに影響を受けて大企業の雇用吸収力は変化するが、全体の絶対数からすれば一部の変化である。
大企業との比較で採用環境の厳しさを語る前に、採用活動に会社が本気で取り組んでいるかを確認すべきである。そもそも、人員増強の必要性を経営陣が明確に議論したのか、学生に対しての説明会を根気強く行ったか。そして、最も重要なポイントであるが、社長自身が自分の言葉で会社の魅力を学生に伝えたかである。
就職情報サービス会社の担当者が話してくれた。学生が「やりがい」や「自分を活かせる仕事」を判断する材料として数々のエビデンスを探そうとする。そして、それを見つけたところに決めるのだと。中でも、経営者自身の話しから、それを感じとるケースが多いのだと。