シリーズ 中小企業にできること・戦略編(1)

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2006年11月号掲載

経営者の意思

「経営戦略(あるいは経営計画)をお持ちですか?」と中小企業の経営者に聞いてみたとしよう。おそらくほとんどの経営者は、ばかにするなといった感じで、当然持っていると答えるだろう。経営戦略は、いうなれば経営者の意思そのものであり、経営戦略がないということは、経営そのものを放棄したことを意味するからである。ただし、次の問いとして「それではそれを見せてください」と言った時点で、対応はいくつかに分かれる。一つは、「俺の頭の中に入っている」というもの。当然見せるだけの資料などはない。たたき上げの親分として会社を引っ張ってきた社長にとって小難しい明文化された経営戦略など必要ないということである。
もう一方では、しっかり明文化された理念を持ち、戦略・アクションプランまで落とし込んだ計画を持っている会社。当然、数値計画も綿密に練られ、銀行等へ適宜報告がなされている。最もよくできたものになると、一部の経営陣だけで策定されたものではなく、社員の気付きや思いを細部に取り込み、押し付けの計画ではなく、社員一人一人のための戦略になっているものもある。
言うまでもなく、後者の方が望ましいわけだが、気をつけなければならないのは、どれだけ膨大な資料を作成しても、額縁の中に入れて毎日唱和したところで、魂が入っていなければ親分の気合のほうが社員には浸透することもありえるということである。
経営戦略は、策定すること自体以上に、社員に浸透させることのほうが難しい。多くの中小企業において、計画立案に労力を費やし、その意味を社員に理解させるところまで手が回っていないのが実情なのだ。
逆に言えば、成功している企業の経営者は、自らのビジョンを明確に表現し、わかりやすく社員に伝え、共通の価値観の下で行動を共にしているのである。つまり有効な経営戦略を策定し、社員に浸透させることが成功の秘訣なのだ。
このような経営計画の重要性は、多くのところで繰り返し叫ばれている。もし、明文化された経営計画をまだお持ちでない企業があれば、早速着手することをお勧めする。

経営計画策定のメリット

魂のない経営計画は意味がないと言ったが、経営計画がないことには始まらない。経営計画をしっかりと策定することで、実は、数々のメリットも得られる。
このシリーズの「金融編」でもふれたが、銀行に対しては、計画との差異を分析することが重要だ。有効な計画でなければ分析することに意味がなくなってしまう。また、貸し渋りを助長したとの批判もある「金融検査マニュアル」であるが、別冊の中小企業融資編は、よく読むと中小企業金融に配慮した内容になっていて、その中にも、有効な経営計画の有無が企業の判断材料の一つになっている。経営計画の有無が債権分類を変える可能性だってあるわけである。
金融面だけではない。国の支援策と経営計画は、切っても切れない関係にある。創業支援や経営革新支援、新連携と、ほとんどすべての施策について戦略性と計画を求められている。
これらの施策は、知っているものが得をする面もあるのでよく調べた上で、ガイドラインに沿った経営計画を策定することが必要だ。次回は、具体的に経営革新支援について詳しく見てみよう。