地域企業のイノベーションを育むために

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2007年10月号掲載

地元主体の種蒔きを

東京と地方の間での格差の是正のためには、地域企業のイノベーションが必要であり、地方に「人」をひきつけるための工夫が必要だと前回述べた。それでは、そもそも地域企業のイノベーションでどのようにして「人」をとどまらせる流れを作るのだろうか。
従来使われてきた「企業誘致」という概念がある。以前に書いたように企業を連れてくればひとまず工場建設やインフラ整備で地域経済を刺激する一次的な投資効果はあるが、投資が一過性で「人」の定着が工場の従業員などに限られるのであれば、将来に向けての継続する経済効果は当該企業の工場配置政策など経営方針に依存するところが大きい。「企業誘致」と「イノベーション」とでは地元主体で産業の種を蒔き、育成するべく変革があったか否かというところの創意工夫が異なる。
筆者の身近に、地方の中核都市にインターネット動画配信のコンテンツ制作企業を根付かせた例がある。この経営者は当該地方都市の人材を使い、東京の拠点と双方を使い分けることで企業を地元に根付かせるビジネスに成功した。経営者という「人」に始まり、東京で就業したかもしれない地元の人材を地方で比較的希少な職種で吸収することよって安定感のある雇用を生んだといえよう。前出の工場誘致の場合と比較して即効性と初期のインパクトに乏しいことは否めないが、後で述べる人材のミスマッチの解決まで含めれば人と企業の成長の芽を育んだことは明らかだ。

なぜ結果が出ないかを分析

従来の産業振興のやり方で結果が出ていない要因を丁寧にときほぐしていくことが、新たな結果を出すことに結びつく。
先ほどのIT企業経営者をとっても、イノベーションの担い手は起業家であり経営者というタレントを具えた「人」である。このようなタレントを育てるためにお金の面でも知恵の面でも地域のイノベーター育成に十分な投資をしてきたとは言えないのではないか。
例えばひとつの試みとして、ある地域の大学では地元に起業する人材の育成に焦点をあて、研究と啓蒙の拠点を作ることが徐々に実績をあげている。この地方大学ではビジネス構築に成功した経営者の成功体験を多くの起業家予備軍と共有している。それとともに、単なるベンチャー経営塾に終わることなく、新興企業を地域産業として根付かせることを目的として成功例活用の取り組みがなされている。もちろんここを巣立った人材がすべて起業することはないが、地元地方銀行や会計事務所、コンサルタント会社で力を発揮している者も多い。貴重な情報がやがて有効な産業振興策の策定に好ましい環境づくりを後押しすることは想像に難くない。
一方で、地方から東京への頭脳流出は、どこの地方も抱える問題である。企業誘致が繰り返されても地方に彼らの能力を十分に活かせる働き口がないとも言われる。地元に残りたいと熱望しつつも、ミスマッチの結果、地方を離れる人も少なくない。これらの人材をとどめおき、訓練したのち地域企業の変革に役立てることはできないだろうか。就業にハンデを負った人々に就労教育や雇用促進が奏功しているように、地域活性化のための人材教育や登用の制度があってよいと考える。ミスマッチという不経済が発生している状態こそ行政の出番である。