地域の自律的な経済循環とは

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2007年12月号掲載

短期的な利益追求のつけは

地域の中小企業にとって、地域経済の活性化は、非常に重要な問題である。地域経済が疲弊する中での個別の地域企業の発展はなく、地域の企業の発展なしに地域経済の活性化は考えられない。にもかかわらず、地域経済と、そこにある中小企業の有機的な連携について十分な議論がなされているかといえば、そうではない。地域経済の問題を議論する場合に、政治的な問題として一般論化されて議論されることが多すぎる。地域経済の問題点には共通性があるにせよ、地域経済を担う地域企業はリアルに存在している一つ一つの民間企業である。一般論化することで議論がぼやけて抽象的な議論が先行したのでは地域企業にはピンとこない。地域企業不在の地域経済活性化をいくら議論したところで、地域企業は乗ってこないし、地域経済の活性化策にはつながらないのである。
個別企業の問題は、個別の企業努力の問題、地域経済の問題は、また別の問題として考える。このような考え方は、決して地域企業の有機的な連携を意識した考え方とは言えないが、実際にはこのような考え方が蔓延している。
競争に勝つためには、たとえ地域経済にマイナスであっても、経済合理性を最優先させるという行動もその一つの例だ。例えば、調達先の選定において、これまでの取引関係に関わらず、単純に1円でも安い調達先を選ぶことなどは、地域の産業循環を破壊してでも自社の利益を優先することと言える。ただし、このことを個別の企業に対して攻めることはできない。地域経済にマイナスであっても、自社にとってメリットがあれば、企業努力としてそれを行わなければならない、グローバル競争の中ではそれもやむを得ない。そんな風潮が支配的なのだから。

地域の連携がブランドへ

しかし、中長期的に見て地域経済を無視してでも自社の短期的な利益を追求することが望ましいかといえば、そうでないことは明らかである。誰も好き好んで、地域の産業循環を破壊したのではない。個々の短絡的な利益を追求した結果、地域経済において「市場の失敗」が起きたのである。
比較的小さい町では、地域の産業循環のメカニズムがわかりやすい。そのおかげで、この失敗を回避できたところがある。
東北地方のある日本酒醸造会社は、第六次産業を標榜している。農業を中心とした第一次産業、醸造業を中心とした製造業としての第二次産業、販売、ブランド戦略を中心とした第三次産業を有機的に、足し算的に(あるいは掛け算的に)連携させようという取り組みである。
地域の産業循環は、大量生産、大量消費時代が訪れる以前は機能していたのだという。地元のお米を使い、地元の蔵で醸造し、販売していた。その後、大きくなること、コストを下げることに腐心した酒蔵のなかには、原点を見失ったところもあったという。
しかし、大量生産時代のモデルが崩れた現在においてこそ、地域との連携が重要だという原点を見失わなかったその会社は、農業を営む会社を特区申請の末に設立し、米づくりを始めたのである。
地域の米づくりが高齢化や後継者不足によって立ち行かなくなる場面を目の当たりにしての決断だったという。地域の好循環が、安全・安心の米づくり、酒造り、そしてブランド戦略に有機的に結びついている好例ではなかろうか。