イノベーションを失敗させないために

第一生命経済研究所レポート「中小企業アイ」 2008年1月号掲載

最新技術は絶対条件ではない

前回は、地域の活性化が地域の自律的な経済循環によってもたらされる可能性について考えてみた。また、これまで、地域企業のイノベーションにとって必要不可欠なものとして、地域に人をとどめ置くことの重要性を確認してきた。さらに、広義のイノベーションは、必ずしも最新の科学技術の中から生まれてくるとは限らず、日常の何げない仕事の改善や工夫の中から生まれてくることもみてきた。つまり、改善や工夫を重視する空気に満たされ、そこに「人」をとどめ置く魅力が加われば、中小企業の活性化は十分可能であり、地域内でそれらの企業が有機的に連携することで、地域経済が自律的に循環するのだ。
もっとも、日常の改善や工夫の中からイノベーションが生まれるという点では、企業の大小は関係なく、今日の大企業もルーツをたどれば、小さな工夫の積み重ねにより現在の地位を確立している。世界のトヨタの最大の強みは、カイゼンによって生産プロセスを最適化していることであり、3Mのポストイットも、最先端の技術を駆使したものではなかった。これらの企業が成功した理由は、これらのアイディアをしっかりとマネジメントできたことにある。製造業としての技術の高さがこれらのマネジメントをサポートした側面もあろうが、成功の主たる要因は最新の技術工学に由来するものではない。

意外にアナログな4つの要因

イノベーションが必ず成功するための条件を示すことは容易ではないが、失敗の要因は研究が進んでいる。以下に、ハーバード・ビジネス・レビュー記載のロザべス・モス・カンター氏の記事を参考に4つの失敗の条件をあげよう。

  1. 戦略面の失敗として、大きな成功を望みすぎるあまり、小粒のアイディアや漸進的なアイディアを見逃してしまうことである。また、目に見える新製品開発を重視するあまり、業務プロセスや財務、物流部門でのイノベーションを軽視してしまうことがある。開発の段階から、大ヒット間違いなしのキラーコンテンツなど存在しないのに、それを求めてしまうのである。
  2. プロセス面の失敗として、既存事業の管理をあてはめてしまった結果、厳しすぎる管理のもとで、イノベーションが押しつぶされることがあげられる。新規事業に対して既存事業と同様の進捗、予算執行、業績評価を求め、融通のきかない厳格な管理を行ってしまうのだ。
  3. 組織面の失敗として、既存事業との連携を欠いてしまうことである。本来、既存事業の発展形あるいは補完のために生まれてきたイノベーションなのに、既存事業と切り離して考えた結果、うまくいかなくなるのだ。
  4. 最後にスキル面での失敗として、社内におけるコミュニケーションの不足があげられる。革新にとって最も重要なのは、チームの結束である。MITの調査によれば、R&Dチームの生産性を最大限に発揮させるためには、少なくとも2年間は同じ職場でともに働く必要があるという。

このようにみると、これらの4つの失敗を回避する要因は、場合によっては中小企業において、より有利に作用するとも考えられる。もはや、大企業か中小企業かという分類よりも、イノベーティブかどうかが問われている。地域企業は、不足しがちなマネジメント力を強化したときに、よりイノベーティブな組織になれる可能性があることを自覚する必要がある。